人生の活力は物欲なり

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舞台「ワーニャ伯父さん」感想。黒木華の凜々しさと宮沢りえの妖艶さ

 数年前から、東京に来た時は何かを「生で見る」事にしている。

 映画なら地方でも見られるし、パソコンやカメラ等の電気製品もAmazonやヨドバシのサイトで買えるようになったので、田舎に居るハンディはあまり感じなくなった。

 そんな中で、演劇でもコンサートでも落語でも大相撲でもいいが、「生」やっているイベントを見るのは(ほとんど)都会でしかできない経験なので、「ぴあ」で公演を検索して予約するようにしている。

 今回は、9月15日(金)の夜と16日(土)の昼に時間がとれたので、2本の舞台を見に行くことにした。

 まずは、チェーホフ作でケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の「ワーニャ伯父さん」。
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 劇場にたどり着くまでにいろいろあったが、それは別に書く。

 

enikki.hatenablog.jp

 

 会場の新国立劇場小劇場は満員だった。

 帝政ロシアの田舎屋敷で暮らす農夫ワーニャ(段田安則)と姪のソーニャ(黒木華)のもとに、ソーニャの父で元大学教授のセレブリャーコフ(山崎一)と後妻のエレーナ(宮沢りえ)が戻ってくる。
 平穏だった田舎屋敷の暮らしは、教授夫妻の帰還によって一変してしまう。


 ロシアの作家チェーホフの4大戯曲の1作で、同じケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の舞台としては「かもめ」「三人姉妹」に続く3作目らしい。

 ケラリーノ・サンドロヴィッチと言うと、TVドラマ「時効警察」や「怪奇恋愛大作戦」、映画「罪とか罰とか」の演出・監督で知っていて、不思議な間合いの面白い作品を作る人として名前を知っていた。(上の3作品は麻生久美子出演作でもある)

 と言うわけで「ロシア文学を原作にしたコメディ」だと思っていたが、全然そんなことはなくて、(おそらく)原作に沿ったまじめなまじめな舞台だった。

 農場を経営し苦労して義兄に仕送りするワーニャの苦悩、「性格はいいが容姿に難がある」ソーニャの淡い恋心、奔放で魅惑的に見られる事に悩むエレーナ、気むずかしい学者のセレブリャーコフ、ソーニャに慕われながらエレーナに恋心を抱く医師アーストロフ(横田栄司)…、それぞれ苦悩を抱きながら懸命に生きようとする人々の営みを、2幕2時間で描いている。

 他にも芸達者な方々の演技は迫力があり、発声もしっかりしていて「舞台俳優って凄い!」と圧倒された。

 宮沢りえは、妖艶でいながらチャーミングであり、多面性のあるエレーナにぴったりだった。ときどき非常に若く見え、20歳近く歳の違う黒木華と並んだシーンでは姉妹みたいにも見えた。

 黒木華は、凜として美しく、背筋をしっかり伸ばして立っている姿だけでも絵になる。「重版出来!」のコミカルな演技が印象に残っていたが、この作品では、うって変わって可憐なヒロインにぴったりの演技で、芸域の広い方だと感心した。

 美しい女優さんと格好いい俳優の方と同じ空間を共有する舞台を見ていると、時間が瞬く間に過ぎて終演となった。

 いろいろ(自己責任で)苦労したが、それにお釣りが来るぐらいの幸せな時間を過ごすことができた。